訪問看護ステーションにおける
「訪問看護師」と「理学療法士」等
とのより良い連携とは?
訪問看護ステーションにおける看護職員とセラピストの連携、みなさんはどうされていますか?
看護職員とセラピストがいるステーションも、セラピストの配置がないステーションも、看護師と療法士という異なる専門職との連携の振り返りや、連携を深める新たな取り組みをされているのではないでしょうか。
今回、「訪問看護ステーションにおける看護師と理学療法等との連携の現状調査と手引き」の作成に携わりました。そこで手引きができあがるまでの経過と、より良い連携ができるようになるまでのメディナスの取り組みをご紹介します。
また、今回の取組みは、医学書院様の「訪問看護と介護」誌2018年12月号にも座談会として掲載されていますので、ご興味のある方は、ぜひお手に取られてはいかがでしょうか。
メディナス訪問看護ステーションは2016年4月の開設です。開設当初3名の看護師と1名の作業療法士が所属していました。
利用者への対応について療法士と看護職員で異なると、数の論理で看護師の意見が通っていたそうです。
退院直後に屋内の段差を上がれない利用者がいました。
看護師は「入院によって筋力が低下したのですね。ご自宅での転倒のリスクも高いですし、段差を越えられないのではご不便でしょうから、手すりを付ければいい」と考えました。
ところがセラピストは利用者がどこまで回復するかを予測して、「リハビリをすることによって、3ヶ月以内にはその段差を自力で超えられるようになる。だから今、手すりを付けてしまうと、逆に手すりに頼ってしまって回復が遅れるもしくは回復を阻んでしまうことになりかねない」と考えます。
両者の意見が異なった場合、数の論理で看護師の意見が通ってしまう傾向があったと聞いています。
その後、理学療法士が2名加わり、利用者も増え、以前に比べるとセラピストと看護師とで話しをする機会が増えてはいました。3人は自らをリハチームと呼んでいました。その言葉には、リハビリはリハビリ、看護は看護という意識の分断が含まれているようでした。
後で療法士たちに話を聞いてみると、病院では看護師は忙しく、療法士たちは看護師がケアや処置をする合間を縫ってリハビリテーションを実施してきた。先輩から看護師の邪魔をしないようにと常々言われていたといいます。だから看護師は気を遣わなくてはならない怖い存在なのだという印象だったそうです。
看護師たちに聞いてみると、確かに病院では治療が優先だから療法士が来ても、今、処置中だからと言って療法士にリハビリ時刻をずれしてもらうことを当たり前のようにしていたと。
お話は少しずれますが、その頃、リハビリ職員同士であっても、理学療法士と作業療法士ではアプローチの仕方が違い、一人の利用者に異なる専門の療法士が介入するとやりづらさを感じるなどという意見もあり、事業所内での連携はまだまだできていない状態でした。
メディナスの職員は看護師7名、理学療法士等5名に増えました。所長は訪問の経験の浅い看護師です。そこで、意識的に協力しあう関係を作るためにも、訪問を専門とする認定療法士であってケアマネジャーの資格も有する設立当初から勤務していた作業療法士を副所長に任命しました。
二人は事業を運営するにあたり利用者へのケアをどうするか話合う必要に迫られました。最初は考え方が違う、と話が途中で終わってしまうこともあったようです。が、お互いに利用者のことは大切に考えているし、利用者からの評判もそれぞれに悪くはないのです。では何が違うのか。
最初は言葉の違いの壁にぶつかりました。例えば「デクビをデブリするって、床ずれを切除するってこと?」「麻痺側下肢の分離ってどういうこと?」など。
両者とも医療職でありながら、療法士と看護師では日常的に使う専門用語が異なります。言葉を理解できなければ、その先に進むことはできません。専門用語を解説してもらって理解しようとする。解説してもらって理解しようとする。お互いが、分からないことを分からないと言える。お互いが相手を分かりたいと思って関わる。その繰り返しによって、少しずつ相手の話している内容を正しく理解できるようになっていきました。
看護師にリハビリへの理解を深めてもらう意図をもって、作業療法士である副所長に事業所内勉強会で「訪問看護におけるリハビリとは」を講義する機会も作りました。
問題解決思考の看護師、課題解決思考のセラピスト。ICF(国際生活機能分類)の考え方は、多職種連携において欠かせません。看護師たちからは、「勉強不足だったわ~」と謙虚な感想も出てきました。
しかし大きな目標に向かって、まずは小さな目標を達成する思考は共通しています。「アプローチの方法や視点は違うけど、目指しているところは同じだったのね」
共通点がみつかると、それまでの看護師対リハチームという精神的構図も、看護師と療法士で一つのチームをいう具合に進化していきました。
看護師は病状を看ることができて、病気の予後予測がつけられます。ですから健康問題を早期に発見し、それを医師に報告することによって早期の検査・治療に結び付けるという役割を果たしています。けれど機能回復の予測はなかなか出来ませんでした。
一方、セラピストは機能や活動の状態を評価することができます。そして回復訓練をして、どこまで回復するか予測をたてられます。けれど病状が不安定なときの対応には困ってしまうことがありました。
そうであるならば、「お互いの強みを活かして、弱みをカバーしあえばいい」そういう漠然とした概念をもちつつありました。けれど具体的にどうしたらいいものやら・・・。
そのころ、看護職員と理学療法士等の連携の実態調査がありました。調査項目に従って、私たちのステーションも日頃の連携を振り返る機会を得ました。
訪問看護計画書は1枚の用紙に看護師と理学療法士等が一緒に記載していました。しかし内容を読み込んでみると重複している部分があることに気づくケースもありました。
毎日、朝礼・夕礼で申し送りをして、利用者の情報の共有はできるようになってきていました。が、看護師から理学療法士等に対して体調変化を認めたときに、数値がいくらだったらどうするかなどの打ち合わせができていないことなどに気づきました。またがんターミナルの利用者の看取り期の予測がつかなくて困るなどの意見が理学療法士等から出てきて、予後予測を伝えられてなかったことに気づいたりしました。
理学療法士等からも、看護師が行うリハビリ上の注意点は漠然としたものが多いこともわかりました。
それからは、相互に、連携においては、何を連携するのかを相互に分かる言葉で、具体的に伝えることもできるようになりました。例えば「起立性低血圧を起こしやすい利用者なので、訪問直後と端座位にした時点とで血圧を測定し、収縮期血圧が100未満であるときは、看護師に連絡してください」とか、「リハビリ後に水のみのお茶をのませてください。ただし覚醒が不良の場合は、無理に飲ませないで、ご家族にその旨をメモして残してください」など。いつ、だれが、何を、どうするのかがわかると、対応方法に困ることもなくなります。
さらに話す機会が増えると、相互の人間関係も円満になり、謙虚にわからないことを相談しよう、聞いてみようという変化が生まれました。例えば、初めての症状が出現していて、どうしたらいいのかわからないといったとき、すぐに電話で看護師に相談するなどです。頼られた看護師は嬉しくて、予定外であっても臨時に訪問して一緒に体調を見極めるようになりました。
こうして相互の信頼関係ができると、少しの時間をみつけて、共に関わっている利用者についてディスカッションをするようになりました。その結果、利用者さんの健康状態が安定し、生活機能が向上するようになりました。介護度が軽くなって、ご卒業という形で訪問看護を終了されたときは嬉しいものですね。
2018年の制度改正で、看護職員と理学療法士等との連携が推進されました。メディナスでは、セラピストのみの利用者様は数人でしたが、利用者様やそのご家族・ケアマネジャーに働きかけて、より良いリハビリ成果を出すために看護職員の必要性をご説明しました。地域のケアマネジャーの理解と協力をいただくことができて、理学療法士等と看護職員が訪問できる体制が整いました。
手引きを見ると、stepごとに看護職員と理学療法士等の連携のコツが書いてあります。